院長ブログ一覧

新しい糖尿病・肥満の薬の開発

新しい糖尿病・肥満の薬の報告が続いています。

ロベグリタゾンは韓国で開発中のPPARγ作動薬です。第3相試験の結果が報告されました(Diabetes Obs Metab 2025)。ロベグリタゾンは231人の糖尿病患者(メトホルミンとシタグリプチン服用者)に使われHbA1cが1.03%低下しました。

PPARγ作動薬はこれまで不幸な転帰をたどってきました。心血管系の副作用が疑われて廃薬になったロシグリタゾン(実は濡れ衣)、膀胱癌が疑われて使いづらくなったピオグリタゾン(アクトス:その後の研究でほぼ問題なし)があります。この2つの薬は治験段階では問題なく、市販後にクレームがつけられました。ロベグリタゾンは受け入れられるでしょうか。


エクノグルチドは中国発のGLP1受容体作動薬:cAMPバイアス型という新しいGLP1受容体作動薬です。第3相試験の結果が報告されました(Lancet Diabetes & Endocrinol 2025)。エクノグルチドはHbA1cを最大2.39%改善させ、体重を9-13%減少させました。

GLP1受容体作動薬は複数の信号経路を活性化します。活性化される経路は、主にGタンパク質/cAMP経路(インスリン分泌や体重減少に関与)とβアレスチン経路です。βアレスチン経路が活性化されると、受容体が細胞内に取り込まれ、Gタンパク質/cAMP経路の信号伝達が抑制されます。また他経路へ別信号が伝達されます。エクノグルチドはcAMP経路が強く活性化され、βアレスチン経路があまり活性化されない薬です。


カグリセマはアミリン受容体作動薬(カグリリンチド)とGLP1受容体作動薬(セマグルチド)の混合製剤です。ノボノルディスク社が開発中です。カグリリンチド単剤で10%、セマグルチド単剤で最大17.4%の体重減少がありますが、合剤のカグリセマは20.4%という体重減少を達成しました(NEJM 2025)。HbA1cは1.8%減少しました。

アミリンはインスリンと同じく膵β細胞から分泌されるペプチドホルモンです。胃排泄能抑制、食後のグルカゴン分泌抑制、摂食抑制、胃からの酸や消化酵素の分泌抑制、膵臓外分泌物の分泌抑制等の作用があり、米国ではアミリンの合成類似体Symlinが糖尿病治療薬として承認されています。


アミクレチンもノボノルディスク社が開発している薬です。単一分子でアミリン受容体とGLP1受容体の両方を刺激します。アミクレチンの第1b/2a相試験の結果が報告されました(Lancet 2025)。この論文は肥満患者を対象にしたものですが、体重が24.3%減少しています。

経口GLP1受容体作動薬:リベルサスの用量を増やして減量効果をみた成績も報告されています(NEJM 2025)。リベルサスを25mgまで増量しますと、体重が13.6%減少しました。

マリデバート カフラグルチド(GLP1受容体作動+GIP受容体拮抗作用をもつペプチドー抗体複合体薬)の第2相試験の結果が報告されました(NEJM 2025)。長時間作用型で月1回の皮下注射です。肥満コホートで、12.3〜16.3%の体重減少、肥満・糖尿病コホートで8.4〜12.3%の体重減少、1.2〜1.6%のHbA1c減少を認めました。不思議なことに、マンジャロ(チルゼパチド:GLP1+GIP受容体作動薬)とGIP受容体に対する作用が反対の薬です。

オルフォグリプロン(経口GLP1受容体作動薬)の第3相治験については4月に紹介しています。レタトルチドについては2年前に紹介しています。イーライリリー社が開発中の薬で、GIP・GLP-1・グルカゴン受容体の3重作動薬(トリプルG)です。現在第3相治験が進行中です。

良い薬ができると良いですね。


令和7年10月16日

糖質制限食? 適正糖質食?

網羅的に調べたのではないのですが、サプリ・健康食品を作っている会社によって糖質制限の捉え方が違います。

富士フイルムはメタバリアなどのサプリを作っていますが、「糖質制限のやりすぎはデメリットだらけ? 1日のグラム数・正しいやり方を理解しよう」というホームページ(https://h-jp.fujifilm.com/contents/supplement/yomimono/st-kiji001.html)を立ち上げています。

厚生労働省の食生活改善指導担当者テキスト、厚生労働省ダイエット、日本人の食事摂取基準(2020年版)を参照文献としていて、オーソドックスな内容です。そして「糖質制限のやりすぎはNG!不足しすぎる場合に起こりうるデメリット」を紹介しています。

ホームページによる1日あたりの糖質摂取量の目安は、30-49歳の男性で約388g、同女性で約295g、50-64歳の男性で約374g、同女性で約280gです。

グリコは適正糖質カフェ(https://sunao-fan.glico.com/view/home)を開いています。グリコはSUNAOブランドで、「おいしいを諦めない適正糖質」のためのサプリを販売しています。

グリコの「適正糖質」は1食で摂取する糖質量を20〜40g、間食で10g以下にしています。3食〜間食を入れて4食食べるとするなら、1日あたりの糖質量は60gから130gになります。言葉は「適正糖質」なのですが、糖質制限食ですね。
「適正」の言葉に惑わされず、自分で考えましょう。

注:アドレスの紹介はしていますが、リンクは貼っていません

令和7年10月3日

人工甘味料を使った飲料は基本的に避けるようにしましょう

人工甘味料を使った飲料(カロリーゼロ飲料)はメタボリックシンドロームを増やし、糖尿病によくありません。学会発表ですが、興味深い演題がでていましたので紹介します。

一つめの発表は4,564人(平均年齢24.9歳、女性54.4%)を対象に、1985-6年から30年以上にわたって経過観察した成績です(Current Development in Nutrition 2025)。「人工甘味料飲料」を多く摂っている人(5分位の第5群)はあまり摂らない人(5分位の第1群)と比較して、糖尿病発症リスクが2.29(1.66-3.18)倍に増えていました。摂取した人工甘味料総量とは関連を認めませんでした。

二つめの発表は81人の成人糖尿病女性(肥満/過体重あり)を対象にした減量プログラムの成績です(Diabetes 2025)。対象者を無作為に「水」群と「人工甘味料飲料水」群に分けて、6ヶ月観察しました。減量成績をみますと、「水」群では6.82kg減量したのに対して、「人工甘味料飲料水」群では4.85kgの減量に留まりました。糖尿病状態が寛解した人も「水」群の方が多く、「人工甘味料飲料水」群の2倍でした。

人工甘味料を使った飲料水は食欲中枢を乱します。基本的に避けるのが良いかもしれません。


令和7年7月28日

動脈硬化のリスク因子~高lipoprotein(a)血症

動脈硬化性疾患(心筋梗塞など)のリスク因子に高LDLコレステロール血症があります。遠藤先生・山本先生によってスタチン製剤が開発され(NEJM 1981)、コレステロールを下げる治療ができるようになりました。余談になりますが、私のポリクリ(外来実習)の最初の先生が山本先生です。

スタチンによってLDLコレステロールを下げることができるようになったのですが、それでも動脈硬化リスクが残っていました。心筋梗塞を起こした人のLDLコレステロールは必ずしも高くなく、コレステロールパラドックスと呼ばれていました。LDLコレステロール以外の動脈硬化リスク因子が想定され、それを調べていく中で生まれたのが、「シンドロームX」の考え方です。「シンドロームX」は、インスリン抵抗性を基盤とする病態の概念です。他に「シンドロームX」と呼ばれる別疾患があることから名前にメタボリックが追加され、さらにXが消えて、「メタボリックシンドローム」と呼ばれるようになりました。

松沢先生によってメタボリックシンドロームを起こしてくる原因に「内臓脂肪の蓄積」があることが示され、内臓脂肪蓄積が諸悪の根源とみなされるようになりました。メタボリックシンドロームでは複数の動脈硬化リスク因子がそろってやってくることが特徴で、単純に動脈硬化リスク因子を並べたものでありません。ですから、その診断にLDLコレステロールは入っていません。

高LDLコレステロール血症、メタボリックシンドローム以外にも動脈硬化リスク因子があります。その一つが高リポ蛋白(a)血症です。リポ蛋白(a)(lipoprotein(a) 、略称lp(a))はアポリポ蛋白Bに結合するリポ蛋白で、酸化されたリン脂質の運搬に関わっています。lp(a)濃度は主に遺伝で決まり、あまり調節を受けていません。治療薬がないからでしょうか、1963年発見と歴史は長いのですが、あまり測られることがありません。

最近、lp(a)を下げる薬の開発が進んでいます。mRNAを抑制する新しいタイプの薬(核酸医薬品)です。ペラカーソンはアンチセンス・オリゴヌクレオチド(標的遺伝子のmRNAに結合してその発現を阻害)、オルパシランレポディシランは低分子干渉RNA(二本鎖RNAで、完全に相補的な配列をもつmRNAを標的として対合し、その発現を阻害)です。

今回はレポディシランの成績を紹介します(NEJM 2026)。対象は、lp(a) 253.9nmol/l以上の320人です。レポディシランは効果が半年間持続します。0日目と180日目にレポディシランをそれぞれ16mg、96mg、400mgを投与する群、0日目に400mg、180日目に偽薬を投与する群、ともに偽薬を投与する群に無作為に割り付け、皮下注射しました。

60-180日の偽薬調整後のlp(a)変化率はレポディシラン16mg、96mg、400mg、偽薬(プラセーボ)でそれぞれ -40.8、-75.2、-93.9%でした。30-360日の偽薬調整後lp(a)変化率はレポディシラン16mg、96mg、400mg-偽薬、400mg-400mgでそれぞれ -41.2、-77.2、-88.5、-94.8%でした。レポディシランの効果は他の類似薬と比べて同等でした。

lp(a)を抑制して実際に動脈硬化性疾患が減少するか、興味が持たれます。上に述べた3つの薬が長期臨床治験中で、最も早いので2026年に治験が終了します。良い結果を期待します。


令和7年6月24日

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