GLP1受容体作動薬開始後の食品購入
GLP1受容体作動薬(トルリシティ、オゼンピック、マンジャロなど)は食欲を低下させます。GLP1受容体作動薬を開始すると食品購入がどのように影響を受けるかを検討した論文が発表されましたので紹介します(JAMA Network Open 2026)。
舞台はデンマークです。SMILコホート(13,565人)の中から、1,177人(中央値53歳、618人女性)が研究に参加しました。2019-2022年にGLP1受容体作動薬を開始した人が293人。年齢、性、収入をマッチさせた対照群が884人です。100クローネ以上食品に費やしたレシートを分析しました。
1年間の食費は、GLP1受容体作動薬開始前が52,523クローネ(128万円)、開始後が35,051クローネ(85.5万円)でした。GLP1受容体作動薬の開始後の食品はエネルギー密度が209.4→207.3kcal//100gに減少し、砂糖は15.7→15.1g/100gに、炭水化物は19.8→19.3g/100gに、飽和脂肪酸は7.3→7.2g/100gに減少しました。蛋白質は6.6→6.9g/100gに増えました。超加工食品の購買は減っていました。
対照群ではGLP1受容体作動薬開始群と逆の変動をしていました。
食費が2/3に減って驚きますが、GLP1受容体作動薬は食品の嗜好も変えるようです。
令和8年3月10日
医学論文の「最近」はいつ頃?
日常生活でもそうですが、医学論文でも「最近:rencent」という言葉がよく使われます。「最近の研究では、、」とか「最近発見され、、」です。医学論文で使われる「最近」という時間はいつ頃を指すのでしょうか。「最近」であらわされる時間に言及した論文が出ましたので、紹介します(BMJ 2025)。
20ほどの「最近」を含む表現でPubMedを検索し、1000編の英語論文を抽出しました。論文の選び方はつっこみどころがあるかもしれませんが、目をつぶります。
「最近」がいつ頃からを指し示すかですが、平均は5.53年、中央値は4年(25-75%は2-7年)でした。一番多いのは1年です。しかし37年前のことを「最近」と表現していた論文もあり、「最近」が示す時間幅は結構大きいようです。表現別にみますと、「最近の研究」、「最近の手法」、「最近の発見」は古いことが多く、「最近の出版」、「最近の雑誌」は新しいことが多い。分野によっても違いがあり、腎臓学、獣医学、歯科の分野の「最近」は古く、救命救急、感染症、遺伝学、免疫学、放射線の分野では新しい。引用回数の多い雑誌に掲載された論文(つまり一流雑誌の論文)にはより新しい論文が引用されていて、これは何となく分かりますね。
研修医の頃、図書館で調べもの(最近の治療法)をするときは5年以内のものを調べなさい、古い文献はいらないと言われたのを思い出します。今はUpToDateという教科書を使っていますが、数か月単位で更新されています(緊急性の高い場合は数週間程度)。
令和8年3月4日
寝るときは部屋を暗くしましょう
以前に明るい部屋で寝るとインスリンが効きにくくなり、浅い睡眠が多くなって深い睡眠が減少し、心拍数が多くなり、心拍変動が低下することを紹介しました(R04/6/22)。これは健常人20人の実験データをとったものでした。今回は大規模集団で心血管系疾患の起こりやすさを検討した成績を紹介します(JAMA Network Open 2025)。
対象はUK Biobankの参加者88,905人(40歳以上の人が対象:平均年齢62.4歳、女性56.9%)です。9.5年間の心血管系疾患のデータを分析しました。
部屋を明るくして寝ている時間の割合をパーセンタイルで分類し、「0-50パーセンタイル」の群を暗くして寝ている群、「91-100パーセンタイル」の群を明るくして寝ている群としました。
「明るくして寝ている群」を「暗くして寝ている群」と比較しますと、
冠動脈疾患リスク 1.32(1.18-1.46)、心筋梗塞リスク 1.47(1.26-1.71)、心不全リスク 1.56(1.34-1.81)、心房細動リスク 1.32(1.18-1.46)、脳卒中リスク 1.28(1.06-1.55)でした。つまり明るくして寝ると心血管系疾患リスクが高くなるのです。とくに心不全リスクと冠動脈疾患リスクは女性で強く、心不全リスクと心房細動リスクは若い人で強くなっていました。
夜はやはり暗くして寝た方が良いようです。
令和8年2月2日
GLP1(+GIP)受容体作動薬と筋肉
GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬は体重を大きく減らします。このときに筋肉も大きく減ってしまわないか心配になりますが、それほど心配しなくてよさそうです。セマグルチド(ウゴービ:GLP1受容体作動薬)とチルゼパチド(マンジャロ:GLP1+GIP受容体作動薬)の成績を紹介します。
はじめにセマグルチドの成績を紹介します(Diabetes Obes Metab 2025)。糖尿病患者で使われる場合はオゼンピックという商品名で1mgまでしか使えませんが、肥満に使われる場合はウゴービという名前で2.4mgまで使えます。この研究ではセマグルチド2.4mgを使っています。
106名(平均BMI 46.3kg/m2)の分析です。体重は12ヶ月で13%減少しました。総脂肪量は7ヶ月で10%、12ヶ月で18%減少しました。除脂肪体重は7ヶ月で3kg減少しましたが、それ以降は一定でした。除脂肪体重は筋肉・骨・内臓・水分などの総量を指します。〜50%が筋肉ですので、おもに筋肉量の指標になります。握力は12か月後で4.5kg増加していました。また、サルコペニア肥満(筋肉が減少している肥満)は12か月後で49%から33%に減少しました。除脂肪体重で補正した安静時エネルギー支出は7ヶ月後から12か月後にかけて増加しました。
セマグルチドで減量した場合、減り続けるのは脂肪のようです。筋肉の減少は少なく、握力はむしろ増加していました。
次にチルゼパチド(マンジャロ)の成績を紹介します(Lancet Diabetes Endocrinol 2025)。この研究では肥満(+過体重)のある2型糖尿病患者が対象で5、10、15mgを使いました。3割の人がSGLT2阻害薬を併用しています。
246名(平均BMI 33.4kg/m2、平均HbA1c8.3%)の分析です。MRI検査を行い、筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコア(性、BMIをそろえた人の平均筋肉容積と比べた場合の偏り具合)をみています。デグルデクインスリン使用群を対照にしています。
チルゼパチド群を合算しますと、試験開始後52週で筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコアはそれぞれ、-0.36%point、-0.64L、-0.22 と減少しました。デグルデクインスリン使用群では体重と筋肉容積が増加し、他の変数は変わりませんでした。集団に基づく推定変化と比べると、チルゼパチド群の筋肉容積は同様(つまり体重変化に伴う自然変化程度の減少しか認めなかった、-0.04)でしたが、筋肉内脂肪浸潤(-0.42%point)が大きく減少していました。筋肉容積のZスコアはチルゼパチド15mg使用群でのみ減少しました(-0.18)。
チルゼパチドは筋肉容積を減少させますが、その減少は体重減少に見合う適応範囲内であり、体重減少に見合う以上に筋肉内脂肪浸潤が減少するという好ましい結果をもたらしたと結論しています。
GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬で体重が減少しても筋肉には悪影響がなさそうです。
令和7年12月24日