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果物と糖尿病

日本人が食べている果物の量は、(1) 所帯所得200万円未満: 男性73.9g、女性110.6g (2) 所帯所得200万円〜600万円未満: 男性94.8g、女性124.8g (3) 所帯所得600万円以上: 男性93.9g、女性135.6g となっています(平成23年度国民健康・栄養調査報告)。所得の高い人の方が、果物をよく食べていますが、これは果物が高いからでしょう。

では、果物は糖尿病にとってどうなのでしょうか。我が国の食品交換表では果物は表2に分類され、果物はビタミンの補給に大切なので1日に1単位(80kcal)程度食べることを勧めています。しかし、糖度が高く血糖の上昇や中性脂肪の増加をまねく場合があるので食べ過ぎないようにしましょう、とも書かれています。食べる必要がありますが、あまり積極的に摂らないように、という指導です。

米国ではどうでしょうか。
米国糖尿病学会(ADA2013)では、果物と野菜を8-10皿摂るように勧めています。1皿は果物150g、野菜では1カップ(〜240ml)です。ジョスリンクリニックの食事療法(2011)では、果物はグリセミックインデックスが低く食物線維が豊富なので、勧めるべき食品に分類しています(グリセミックインデックス:基準量の炭水化物による血糖の上がりやすさの指標)。

なお、糖尿病に対してではありませんが、米国立保健研究所は、高血圧予防食としてDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:高血圧予防食) を勧めています。DASH食は、(1) 野菜・果物・低脂肪の乳製品を十分摂る (2) 肉類および砂糖を減らす、ことを基本にしています。具体的には、2000kcalの食事で果物4-5皿摂るよう勧めています。


平成25年9月27日

健康的な食事は慢性腎臓病を減らす

健康的な食事が慢性腎臓病(CKD)を減らすと発表されました(JAMA2013)。この研究は大規模なONTARGET試験(25,620人)から出てきた研究です。明らかな腎障害のない2型糖尿病患者(6213人)が対象です。健康的な食事の判定はmAHEIスコア*で行っています。mAHEIスコアは食事ガイドライン遵守度を示すスコアで、高いスコアは野菜などの健康的な食品が多く、揚げ物などの不健康な食品が少ないことを示します(あくまで米国人基準による健康的食事です)。


平均5.5年観察し、
(1) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がない 
(2) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がある 
(3) 死亡 を見ています。いろいろな指標(スコア)で患者を3群に分け、高スコア群と低スコア群を比較しています。

(1) 健康的な食事をしている人は、CKDリスク、死亡リスクが少ない(OR0.74、0..61)。週に3皿以上の果物を摂っている人はCKDリスクが少ない。
(2) 総蛋白、動物性蛋白の摂取が少ないとCKDリスクが増える(OR1.16)。
(3) 塩分摂取量はCKDリスクと関連しない。
(4) 中等度のアルコール摂取はCKDリスクと死亡リスクを減少(OR0.75、0.69)


これまで蛋白質の摂取量が増えると腎に負担がかかり、腎症の進展に影響すると考えられていましたが、この研究ではそうでもなさそうです。塩分(NaCl)は死亡リスクにU字型の影響があり、多くても少なくても良くないようです

観察研究であり、お互いに影響しあう因子が多い食事内容の研究ですので、「これで解決」というほどの説得力はありませんが、与えるインパクトは大きいように思います。

*「米国人のための栄養ガイドライン」をどれだけ守っているかを計算するのに米国農務省が作ったのがHealthy Eating Index (HEI)。それを修正したのがAlternative Healthy Eating Index (AHEI)、さらに修正したのがmodified Alternative Healthy Eating Index (mAHEI)です。

平成25年9月11日

糖尿病と認知症 (2)

糖尿病では認知症が〜2倍起こりやすいと言われていますが、糖尿病になっていなくても平均血糖と認知症が関連するという報告(NEJM2013)がありました。


人数は2,067人です(男性839人、女性1228人: 平均76歳)。平均6.8年観察したところ、(1) 糖尿病がなくても、平均血糖が高い人は認知症リスクが高く(115mg/dlの人は100mg/dlの人より1.18倍リスクが高い)、(2) 糖尿病の人では、平均血糖が高くなるとリスクも高くなりました(190mg/dlの人は160mg/dlの人より1.40倍リスクが高い)。


一方で、糖尿病の人の認知症リスクの計算を試みた成績も発表されています(Lancet2013)。糖尿病に関連した認知症のリスク計算について初めての論文です。

29,961人、平均年齢70.6歳の集団です。10年の観察期間中に、5,173人が認知症と診断を受けました。認知症と最も関連したのは、最小血管症、糖尿病性足病変、脳血管疾患、心血管疾患、急性代謝異常イベント(重篤な低血糖や高血糖)、うつ状態、年齢、教育レベルでした。糖尿病罹病期間やHbA1c自体よりも、最終臓器障害の方が認知症と関連していました

認知症を予防するには「最終臓器障害を減らす」こと、すなわち糖尿病慢性合併症の予防に力を注ぐのが良いでしょう。そのためにはHbA1cだけでなく、血圧や脂質なども含めた総合的な糖尿病管理をお勧めします。


平成25年8月31日

糖尿病と認知症 (1)

認知症でもっとも多い病気はアルツハイマー病です。糖尿病でアルツハイマー病が増えるかどうかはホットな話題です(脳血管性認知症が糖尿病で増えることは確実ですが、アルツハイマー病はまだ結論がついていません)。認知症の疫学研究で難しいのは、認知症の分類診断です。

我が国では久山町研究という素晴らしい研究があります(Neurology 2011)。久山町研究は、受診率80%、剖検率80%、追跡率99%以上と世界に類を見ません。全員にブドウ糖負荷試験をして耐糖能を調べています。剖検(死後の解剖)をしていますので、認知症の分類もしっかりしています。1,017人、15年間の観察です。


結果ですが、糖負荷後の血糖が境界域(140mg/dl〜)からアルツハイマー病と関連していました。空腹時高血糖はアルツハイマー病と関連していませんでした。脳血管性認知症は耐糖能状態が悪化すると増加していました。


別の論文ですが、糖尿病とアルツハイマー病には関連がないと報告がありました(JAMA Neurology2013)。アルツハイマー病の診断は、剖検(集団1)あるいは11C-PiBを用いたPET検査(集団2)で行っています(剖検は死後の解剖。11C-PiBは放射線を出す標識を使った生体検査で、生きている時にアルツハイマー病の原因とされるβアミロイドの負荷を調べます)。この論文は、アルツハイマー病の診断はしっかりしていますが、集団1が197人、集団2が53人と、人数が少ないのが難点です。


その結果は「アルツハイマー病は耐糖能異常、インスリン抵抗性と関連がありません」でした。また明らかな糖尿病があっても、アルツハイマー病の病理スコアは変わりませんでした。つまり「アルツハイマー病には糖尿病の影響がない」と結論されます。


今回紹介した論文は、両方ともアルツハイマー病の診断がしっかりしています。はたしてどちらが正解でしょうか。


平成25年8月31日


アルツハイマー病の中に、「アミロイドβの負荷が少なく神経原線維変化が進行する」特殊な糖尿病関連認知症がありそうです。剖検は死後の評価(最終段階)で、生前検査であるPET検査(途中経過)と異なる時期をみている可能性があります。

平成27年2月20日追記

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