院長ブログ一覧

世界からみた日本の糖尿病

新聞やテレビで「日本は糖尿病が多い」と報道されます。本当はどうなっているのでしょうか。国際糖尿病連合(IDF)から糖尿病アトラス2021が出ましたので紹介します。

日本は西太平洋地域に属します。アトラスの西太平洋地域のページを開いて、最初に目につくのは糖尿病有病率(20-79歳)で色分けした地図です。国別に比較するため、有病率は年齢補正されています。有病率の色分け区分は8%未満、8-10%、10-12%、12%以上、不明でなされています。この地域の「年齢補正糖尿病有病率」の平均は9.9%です。

日本はどこに入るでしょうか。日本は6.6%です。つまり西太平洋地域では、日本は少ない国に分類されています。ちょっとびっくりしますね。1位はフランス領ポリネシアで25.2%、2位はニューカレドニア23.4%、北マリアナ諸島23.4%です。

一方、日本の糖尿病患者数は1100万人と多く、この地域では中国の1.4億人、インドネシアの1950万人に次いで3位です。日本は高齢者の数が多いため糖尿病の患者が多くなっているのですね。

全世界でみると、年齢補正糖尿病有病率は平均9.8%(高収入国で8.4%、中収入国で10.5%、低収入国で6.7%)です。最も有病率の高い国はパキスタンで30.8%、次いでクェート29.8%、フランス領ポリネシア25.2%です。


令和4年1月27日

SGLT2阻害剤は骨折を引き起こさない

SGLT2阻害薬(スーグラ、カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。

初めのころの治験で、SGLT2阻害剤は骨折を増やすかもしれないという成績がありました。しかしその後の治験で骨折リスクがはっきりせず、結論が持ち越しになっていました。

今回、SGLT2阻害剤が実際の臨床に使われて骨折リスクを認めなかったことが報告されましたので紹介します(JAMA Diabetes/Endocrinology 2021)。

2013年4月〜2017年12月に米国メディケア保険に加入していた66歳以上の人で、過去に骨折がなく、SGLT2阻害剤、DPP-4阻害剤、GLP1受容体作動薬(GLP1-RA)のいずれかを新たに開始した466,933人が対象です。

SGLT2阻害剤を開始した人が62,454人、うち45,889人に傾向スコアマッチングを行い、DPP-4阻害剤を開始した人、GLP1-RAを開始した人を1:1:1で選びました(平均年齢72歳、男性47%)。

骨盤骨折、股関節骨折、大腿骨、橈骨、尺骨の骨折を見ています。SGLT2阻害剤の骨折リスクは、DPP-4阻害剤と比較して0.90(0.73-1.11)、GLP1-RAと比較して1.00(0.80-1.25)で増えていませんでした。性別、フレイル度(脆弱の程度)、年齢、インスリン使用でカテゴリー別にみても結果は同じでした。

ほっとする成績ですね。


令和3年11月22日

果物が糖尿病発症を予防する

オーストラリアから、果物が糖尿病を予防するという論文が出ました(J Clin Endocrinol Metab 2021)。以前に「果物が糖尿病を予防する」論文を紹介していますが、同じ結論です。

今回の論文では、果物がどのように糖尿病を予防するかを調べるために、インスリン感受性(HOMA-S:インスリンの効きやすさ)とインスリン分泌活動(HOMA-β)を計算しました。HOMA-βはインスリン分泌能とみられることが多いのですが、論文ではインスリン分泌活動としています。

対象は7,625人(ADOLS:45%が男性、平均54歳)、平均12年追跡しています。追跡開始時に「果物摂取」アンケートを聞き取っています。

果物を多く摂る人では、インスリン感受性(HOMA-S)が増加し、インスリン分泌活動(HOMA-β)が減少していました。空腹時血糖、食後血糖には影響がありませんでした。

糖尿病発症についてです。果物摂取量で4群に分けています。最も食べていない第1群(平均62g摂取)と比べて、中等度に果物を摂取している第3群(平均230g摂取)では、5年経過で糖尿病の発症が36%少なくなっていました。果物ジュースには糖尿病予防効果はありませんでした。

12年経過では、糖尿病予防効果ははっきりしませんでした。食事調査は追跡開始時の1回だけであり、影響がなくなっていても当然かもしれません。

まとめますと、果物を摂るとインスリンが効きやすくなり、インスリン分泌の負担が減ります。その結果として糖尿病の発症が予防されるようです。


令和3年10月21日

若い頃のコレステロール (続)

若い時のコレステロールが動脈硬化に大きく関連するという研究は昨年も発表されています(J Am Coll Cardil 2020)。

4,958人(18-30歳)を1985-1986年に登録し、16年追跡した研究(CARDIA)です。

275人が心血管疾患を発症しています。LDLc暴露面積(LDLcx年)のハザードリスクは1.053(100mg/dlx年ごと)、LDLc勾配とは0.797(mg/dl/年ごと)でした。LDLc暴露量が平均より多く、年齢とともにLDLcが下がっている人が最も多く心血管疾患を発症していました。

若い時のLDLcの方が影響が強く、動脈硬化を予防するには若い時期からLDLcをコントロールする必要がありそうです。

日本人で考えてみますと、「今の高齢者」が若い頃は、コレステロール値が低めでした。「今の若い人」は同年齢の米国人よりコレステロール値が高くなっています。若い人の食育は大切に思います。

動脈硬化疾患はこれからどんどん増えていくかもしれません。


令和3年10月11日

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