オゼンピック(セマグルチド)はNASH肝硬変を改善しない
オゼンピック(セマグルチド)はGLP1作動薬です。糖尿病の薬として開発されましたが、体重を減らす効果が強く、米国では抗肥満薬としても認められています。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という病気があります。脂肪肝の一つですが、飲酒していないのにアルコール性肝炎に似た肝炎が起こってくる病気です。NASHは進行すると、肝硬変になり、さらには肝癌が起こりやすくなります。
オゼンピックは軽度のNASH(線維化ステージ1-3:肝硬変まで至ってない)を改善させます。今回、肝硬変まで進んだNASHでの成績が発表されましたので、紹介します(Lancet Gastroenterol Hepatol 2023)。
研究はヨーロッパ、米国の38施設で行われました。生検で診断を確定したNASH肝硬変(線維化ステージ4)があり、BMI 27以上の肥満の方が対象です。
全員で71人(49人が女性)、平均年齢59.5歳でした。BMIの平均は34.9kg/m2でした。糖尿病の方は53人いました。
47人にオゼンピック、24人に偽薬を無作為に割り当てました。オゼンピックは週に2.4mg注射しています。これはちょっと多めの量で、日本で認められている最大量は週に1.0mgです。
主要評価項目は、NASHの悪化がなく1ステージ以上の肝線維化改善です。
脱落せずに48週の注射が完了した人は、オゼンピック群で41人、偽薬群で24人でした。
肝線維化が改善した人は、オゼンピック群で5人、偽薬群で7人、オッズ比は0.28(0.06-1.24)でした。オゼンピックは肝線維化を改善させないと考えられました。残念な結果です。
一方で、オゼンピックは肝酵素(ALT、AST)を低下させ、肝脂肪を低下させました。また、体重を減少させ、血清中性脂肪、VLDLコレステロールを低下させ、糖尿病の人ではHbA1cを改善させました。
まとめますと、オゼンピックはNASHの代謝状態を改善させますが、肝線維化の改善までの力はなさそうです。
令和5年4月12日
成人期のどの時期の運動でも運動した人は認知症が少ない
運動が将来の認知症予防に役立つことが知られています。しかし、人生のどの時期の運動が良いかについては、あまりよく分かっていませんでした。
今回、人生のどの時期の運動でも、どの程度の運動でも認知症予防に効果があるとする研究が発表されましたので、紹介します(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2023)。
対象は1417人(53%が女性)、イギリスに1946年に生まれた人のコホート(1946 British birth cohort)です。余暇時間の運動(スポーツあるいは激しい身体活動)について、36-69歳の間に5回聞いています。認知機能は69歳時に検査しています。
運動回数によって、非運動(0回/月)、中等度運動(1-4回/月)、多く運動(5回以上/月)の3群に分けました。
運動している人は運動していない人に比べて、69歳時の認知機能は高い結果でした。認知状態、言語メモリーはどの時期の運動(36, 43, 53, 60, 69歳)でも、中等度運動群と多く運動群で同じように高くなりました。さらに運動の総量と用量依存的に関連していました。
最も良い結果は、全ての時期も通じて運動を行っていた人でした。全時期に運動している人は全く運動していない人と比べると、ACE-IIIスコア(Adenbrooke's Cognitive Examination)で4点の差が出ています。この検査は100点満点で認知症カットオフ値が88点とされていて、4点の差は大きな差かもしれません。
思い立ったが吉日です。運動はいつの時期でも良い効果があります。ぜひ運動しましょう。
令和5年4月1日
新しい血圧の薬の開発(追記)
今年2月に新しい降圧剤(アルドステロン合成酵素阻害剤:バクスドロスタット)の紹介をしました。このときのBrigHTN研究は良い結果が得られていたのですが、次に発表されたHALO研究は思わしくない結果でした。ここに追記します(American College of Cardiology (ACC) Scientific Session/World Congress of Cardiology (WCC) 2023の発表)。
HALO研究の対象は、ACE阻害剤/ARB、ACE阻害剤/ARB+降圧利尿剤、あるいはACE阻害剤/ARB+カルシウムブロッカーを服用していて収縮期血圧が140mmHg以上の方、249人です。バクスドロスタット(0.5mg、1mg、2mg)あるいはプラセーボ(偽薬)群に無作為に分け、それぞれの薬を服用してもらいました。
収縮期血圧の低下は、バクスドロスタット群(0.5mg群で 17 mmHg、1mg群で 16 mmHg、2mg群で 19.8 mmHg)とプラセーボ群(16.6 mmHg)で差がありませんでした 。
薬をきちんと飲まなかったのではないか、と考察されていますが、どうでしょうか。第2相の治験研究はあと2つが進行中であり、その結果が待たれます。
令和5年3月31日
グリタゾンは認知症を予防する?
グリタゾンはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の薬です。我が国ではピオグリタゾン(アクトス)が使われています。外国ではピオグリタゾンに加えてロシグリタゾンが使われたことがあります。
最近、グリタゾンが認知症予防に働くという論文がでましたので、紹介します。
最初の論文(BMJ 2022)は米国退役軍人の成績です。2001年から2017年の治療記録から解析しました。対象は60歳以上、認知症のない2型糖尿病の方です。実臨床のビッグデータ解析です。
平均年齢65.7歳、559,106人の経過観察中に、8.2人/1000人・年の認知症が発症しました。メトホルミン服用者を基準に比べました。そうしますと、少なくとも1年間グリタゾンを服用した方は22%認知症が少なくなりました。逆にSU剤服用者は12%認知症が多くなりました。アルツハイマー型認知症、血管性認知症と認知症の原因別にみても同様でした。
2つ目の論文は韓国からの報告(Neurology 2023)です。
韓国国民健康保険データのビッグデータ解析です。平均10年観察して、ピオグリタゾン服用者は16%ほど認知症が少なくなる結果でした。
50歳以上で新しく2型糖尿病を発症した、認知症がない91,218人が対象です(2002-2017年の記録)。糖尿病を発症してから4年以内にピオグリタゾンを服用した人は8.3%認知症を発症し、ピオグリタゾンを服用しなかった人は10.0%認知症を発症しました。ハザード比は0.84(0.75-0.95)です。ピオグリタゾン服用量の多い人ほど認知症が少ないという、用量依存性が確認できました。
ピオグリタゾン服用者の認知症減少は、虚血性疾患や脳卒中の既往がある人でさらに強く認められました:それぞれのハザード比は0.46(0.24-0.90)、0.57(0.38-0.86)でした。脳卒中発症もピオグリタゾン服用者で減少しました(ハザード比0.81)。
令和5年3月9日