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糖尿病の歴史18 ロロの食事療法 (3)

メレジス大将の続きです。糖尿病になる前の状態です。ロロの論文はとても饒舌ですが、続けます。

糖尿病になる前の6ヶ月間、週に2-3回気分が悪くなって嘔吐していた。吐物は数日前からの食物残渣であり、酸っぱい味がした。メレジス大将は常に大食漢で、味付けが濃く脂肪の多い食事を好み、飲酒も多かった。これまで痛風発作が2回あり、同じく胆石発作が2回あった。2回結婚し、2人の子供がある。<中略> 糖尿病になる3年ほど前、精力的に軍隊生活をこなし、非常によく食べて同僚の注意をひいていた。病気は自覚せず、高い健康状態にあると考えていた。その後、それほど運動しなくなり、よく食べてはいたが、食欲や無節制はさほどでなかった。


メレジス大将は1796年6月にロロに糖尿病と診断され、10月までヤーマスで内科医の治療を受けます。

食事は動物食と野菜からなり、特別な制限はなかった。1パイント(568ml)〜1瓶のポートワインを毎日飲んでいた。馬に乗り、散歩していたが、疲れのため2マイル(3.2km)の距離を歩くことはできなかった。薬はヤーマスの著名な内科医のもとで処方を受けた。主成分は樹皮とミョウバンである。時に症状が改善し、熱も少なく、尿量も2-3クォート(2.3-3.4L)/日と少なくなったように思えたが、質的に変わりはなかった。糖が許可されて糖蜜の形で摂っており、かなりの量のスプルースビールを飲んでいた。これらが増えると病気が進行するように思えた。


結局、ヤーマスでの治療は奏功せず、同年10月に再びロロを訪ねます

尿は一日で12クォート(13.6L)、一晩で7クォート(8L)出る。淡い麦わら色で、尿の臭いがなく、乳清と菫の香りがして、とても甘い。口渇は激しく、一日7-8クォート(8-9L)以上の水を飲む。舌は白っぽく、湿っている。口中はべとべとしていて、白い霜状の甘い味のする唾を吐く。食欲は変動し、時にとてつもなく強く、夜間など妙な時間に強くなる。

皮膚は乾燥し、非常に暖かい。脈はやや弱く、84/分を超えない。顔は赤らんでいる。頻繁に気分が悪くなり、苦く甘く粘性を有する吐物を吐く。食後に胃の痛みを訴え、それは30分ほど続く。いつも腎のあたりに痛みがあり、痛みは前方に拡がる。特に右に強く、触ると張った感じと圧痛がある。睾丸は退縮して、弱く冷たい感じがある。夜になると同じ側の下肢がむくむ。母趾の痛みもある。腹部に奇妙な痛みを伴った震えるような感覚があり、それは腎のあたりから拡がるように思える。


彼の訴えには、糖尿病以外の症状も混在しています。
さて、血液の甘さですが、

10月18日に56ml採血し、北向きの窓の内側に置いた <中略> ドブソンが書いたような外観・変化を呈したが、ドブソンの観察と異なって血清はそれほど甘くなく、自分にはレンネットで作成されるより濃い乳清の味がした。


血清が甘くないのは、「腎の働きが亢進していて、サッカリン物質(saccharine matter)が素早く血液から尿に移行するからだ」と考えています。


平成27年7月2日

糖尿病の歴史17 ロロの食事療法 (2)

ロロの報告を読みますと、当時の糖尿病を取り巻く状況が伝わってきます。少し長くなりますが、紹介します。

ロロが初めて出あった糖尿病患者です。

1777年、思い出す限りでは5月か6月頃だったと思う。エジンバラの織工が糖尿病患者だった。彼は〜4ヶ月ほど王立病院に入院したが、良くならなかった。主治医は薬用植物学教授の故ホープ医師であった。彼が退院した時、ジョンストーン氏(当時は医学生)、そして私自身が彼を数日引き止め、経費を支払って採血・採尿し、その外観と自然変化を確かめた。私は血液と尿がドブソン医師が述べたとおりであったことをよく覚えている。文書とサッカリン抽出物は外国に行く際に持ちだしたのだが、1780年バーベイドス(注:西インド諸島)で台風にあった際に失ってしまった。それ以後、私はアメリカ、西インド諸島、英国でさまざまな病気を診てきたが、1796年になるまで糖尿病患者には出会うことはなかった。


当時、糖尿病はそれほど多くなかったようです。
次は1例目の患者さんについてです。

これまでも私は職業柄、メレジス大将と会うことがあった。彼は大きく太った男だった。そのため、私はいつも「彼はいつか病気になるだろう」と思っていた。1796年6月12日、メレジス大将が私を訪れてきた。会った瞬間に「小さくなったな」と驚いたが、血色がよく、それ以外は健康であるという印象をもった。しかし話し出してすぐにその逆であることがわかった。彼は大変な病気にかかっていた。何とかならないかと繰り返し医者に行ったが、良くならなかった。そこで彼は私に相談するため訪ねてきたのだ。仕事を整理し、ヤーマスにいる家族と余生を過ごしながら残った仕事をしたい希望があった。

彼は激しい口渇があり、強い食欲に悩まされていた。皮膚は熱く、乾燥してひび割れていた。脈は小さく、速かった。彼は古い病気、肝臓に問題があると考えていた。口渇、乾燥皮膚、頻脈は熱性疾患の特徴を持ち、どこか局所の問題だろう、それが食欲を亢進させていると考えていた。私はすぐさま糖尿病が頭に浮かんだ。彼に尿の状態を尋ねたところ、まさに糖尿病特有の量・色であった。同時に非常に驚いたことは、2-3ヶ月もの間、内科・外科の医師の世話になりながら、多尿について聞かれていなかった。患者のいうには「がぶ飲みするから、おしっこが多いのはあたりまえだろう」、尋ねられなかったくらいだから、彼は何も聞いていなかった。次回の排尿を捨てずに持ってこさせ、尿が甘いことがわかった。そして糖尿病という診断が確かめられた。私は内科医あてに手紙を書いた。



平成27年7月1日

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