院長ログ

どの程度の食塩摂取が健康に良いか (5)

最後にLancet論文(2016)を紹介します。尿中ナトリウム排泄量が健康に及ぼす影響はU字型になりますが、このU字型が高血圧の有無で変わるかどうかを検討しています。

133,118人(高血圧63,559人、非高血圧69,559人)、55歳(中央値)、49ヶ国で行われた4つの大規模前向き研究のデータをプールして分析しています。観察期間は4.2年(中央値)、エンドポイントは心血管系疾患発症・死亡です。1日ナトリウム排泄量は朝スポット尿で推定しています。

1日ナトリウム排泄量が増えると血圧が上昇し、ナトリウム1g(食塩2.54g相当)増えるごとに高血圧のある人で2.08、ない人で1.22mmHgほど高くなりました。


高血圧のある人で、1日ナトリウム排泄量が4-5g(食塩10.1-12.7g相当)の人を基準にしますと、7g(食塩18g相当)以上の人のリスクは1.23、3g(食塩7.6g相当)未満の人のリスクは1.34でした(U字型)。


高血圧のない人で、1日ナトリウム排泄量が4-5gの人を基準にしますと、 1日ナトリウム排泄量が7g以上の人のリスクは0.90(増加なし)、3g未満の人のリスクは1.26でした(増加)。


まとめますと、(1) 高血圧のある人ではナトリウム排泄(食塩摂取)が多いと心血管系疾患と死亡リスクが増えます。(2) 高血圧のない人ではナトリウム排泄が多くても同リスクは増えません。(3) 高血圧の有る無しに関わらず、ナトリウム排泄が少ない人は心血管系疾患と死亡リスクが増えます。

この論文は5月20日にオンライン発表されました。有名雑誌に発表されたこともあってメディアの反応もあり、米国心臓病学会はすぐさま反対声明を発表しました。6月1日にはNew Engl J Med オンラインにも反論記事が掲載されています。

減塩をめぐる問題は決着していません。強力な降圧剤が使えるようになった現在、食塩が血圧を少し上げるとして、どの程度から過剰摂取でしょうか。「エビデンス(確固とした証拠)に基づく医学(EBM)」の総本山であるコクランデータベース(2014)では減塩による心血管系疾患予防のエビデンスレベルは低いと結論しています。減塩しなくて良いという意味でなく、確固とした証拠を得るにはまだまだ研究が必要というスタンスです。

いろいろ読んでいますと、明らかな食塩の摂りすぎは身体に悪そうです。かと言って、米国流の厳重な制限は現実的でないように思います。まずは穏やかな減塩に取り組んではいかがでしょうか。


平成28年7月28日

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