院長ブログ一覧

コーヒーは体重減少を介して糖尿病を予防する

コーヒーをよく飲む人は糖尿病発症が少ないようです。これまでいくつかの報告があります。しかし、カフェインそのものは急性効果として血糖を上げる作用があり、どのように糖尿病予防に働いているか、よく分からないところがありました。

カフェインの影響をメンデルランダム化試験で検討した論文が出ましたので、紹介します(BMJ 2023)。メンデルランダム化試験は、遺伝子多形を利用してランダム化(無作為化)する方法で、統計分析に影響を与える交絡因子の影響が少なくなります。

カフェインは主に肝臓のcytochrome P450 isoform 1A2(CYP1A2)で代謝されます。CYP1A2の働き方が違えば血中カフェイン濃度が変わってきます。そこで今回の研究では、CYP1A2遺伝子と、CYP1A2発現調整を行うAHR遺伝子の近くにある遺伝子多形を選びました。対象はヨーロッパ系の人たちです(FinnGenとDIAMANTE)。

遺伝的にカフェイン濃度が上がりやすい人は痩せている人が多く、体脂肪量も低くなっていました。BMI(体格指数)の標準化偏回帰係数(β)はカフェイン濃度の1SD毎に -0.08(-0.10〜-0.06、BMIの1SD 4.8kg/m2)、体脂肪量は -0.06(-0.08〜-0.04、1SD 9.5kg)でした。

2型糖尿病発症も少なく(オッズ比 0.81(0.74〜0.89))、カフェインの2型糖尿病予防効果の43%(30〜61%)はBMI減少によるものと推定されました。

カフェイン濃度は心血管系疾患とは関連しませんでした。

カフェインをとると急性的には血糖が上がりやすくなりますが、慢性的には体重を減らし、糖尿病発症を少なくすると考えられました。


令和5年4月20日

オゼンピック(セマグルチド)はNASH肝硬変を改善しない

オゼンピック(セマグルチド)はGLP1作動薬です。糖尿病の薬として開発されましたが、体重を減らす効果が強く、米国では抗肥満薬としても認められています。

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という病気があります。脂肪肝の一つですが、飲酒していないのにアルコール性肝炎に似た肝炎が起こってくる病気です。NASHは進行すると、肝硬変になり、さらには肝癌が起こりやすくなります。

オゼンピックは軽度のNASH(線維化ステージ1-3:肝硬変まで至ってない)を改善させます。今回、肝硬変まで進んだNASHでの成績が発表されましたので、紹介します(Lancet Gastroenterol Hepatol 2023)。

研究はヨーロッパ、米国の38施設で行われました。生検で診断を確定したNASH肝硬変(線維化ステージ4)があり、BMI 27以上の肥満の方が対象です。

全員で71人(49人が女性)、平均年齢59.5歳でした。BMIの平均は34.9kg/m2でした。糖尿病の方は53人いました。

47人にオゼンピック、24人に偽薬を無作為に割り当てました。オゼンピックは週に2.4mg注射しています。これはちょっと多めの量で、日本で認められている最大量は週に1.0mgです。

主要評価項目は、NASHの悪化がなく1ステージ以上の肝線維化改善です。

脱落せずに48週の注射が完了した人は、オゼンピック群で41人、偽薬群で24人でした。

肝線維化が改善した人は、オゼンピック群で5人、偽薬群で7人、オッズ比は0.28(0.06-1.24)でした。オゼンピックは肝線維化を改善させないと考えられました。残念な結果です。

一方で、オゼンピックは肝酵素(ALT、AST)を低下させ、肝脂肪を低下させました。また、体重を減少させ、血清中性脂肪、VLDLコレステロールを低下させ、糖尿病の人ではHbA1cを改善させました。

まとめますと、オゼンピックはNASHの代謝状態を改善させますが、肝線維化の改善までの力はなさそうです


令和5年4月12日

成人期のどの時期の運動でも運動した人は認知症が少ない

運動が将来の認知症予防に役立つことが知られています。しかし、人生のどの時期の運動が良いかについては、あまりよく分かっていませんでした。

今回、人生のどの時期の運動でも、どの程度の運動でも認知症予防に効果があるとする研究が発表されましたので、紹介します(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2023)。

対象は1417人(53%が女性)、イギリスに1946年に生まれた人のコホート(1946 British birth cohort)です。余暇時間の運動(スポーツあるいは激しい身体活動)について、36-69歳の間に5回聞いています。認知機能は69歳時に検査しています。

運動回数によって、非運動(0回/月)、中等度運動(1-4回/月)、多く運動(5回以上/月)の3群に分けました。

運動している人は運動していない人に比べて、69歳時の認知機能は高い結果でした。認知状態、言語メモリーはどの時期の運動(36, 43, 53, 60, 69歳)でも、中等度運動群と多く運動群で同じように高くなりました。さらに運動の総量と用量依存的に関連していました。

最も良い結果は、全ての時期も通じて運動を行っていた人でした。全時期に運動している人は全く運動していない人と比べると、ACE-IIIスコア(Adenbrooke's Cognitive Examination)で4点の差が出ています。この検査は100点満点で認知症カットオフ値が88点とされていて、4点の差は大きな差かもしれません。

思い立ったが吉日です。運動はいつの時期でも良い効果があります。ぜひ運動しましょう。


令和5年4月1日

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