院長ブログ一覧

インフルエンザ予防接種の勧め

昨年度、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。新型コロナウイルスの予防策「3密を避ける」行動がインフルエンザの流行を抑えたと考えられています。

今年になっても、春夏が流行期である南半球で流行が抑えられています。オーストラリアのインフルエンザ患者数は500例足らずで、例年の30万人に比べてごく少数に留まりました。

一方インドでインフルエンザが出ているようです。西アフリカでもインフルエンザ流行が報告されています。インフルエンザはなくなったわけでなく、一部でくすぶっているようです。

米国でのインフルエンザ流行予測が報告されました。まだ査読前の論文ですが、例年より大きなインフルエンザ流行が数理モデルで予測されています。そのシナリオによると、インフルエンザで入院される方が10万2000人(5万7000〜15万2000人)です。また小さなお子さんで大きくはやる可能性も指摘されています。

昨年度インフルエンザの流行がなく、免疫を持つ人が少なくなっている、というのが流行が大きくなる原因です。

コロナ流行が下火になり(減ってくるのはうれしいですが)、3密を避ける行動が緩んでくると、インフルエンザがはやりそうです。インフルエンザワクチンの接種をお勧めします。


令和3年10月8日

運動の効果はこんなところにも

身体活動と新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの論文が出ました(Br J Sports Med 2021)。

この論文では、入院率、集中治療室(ICU)への入室率、死亡率を、年齢、人種、基礎疾患の有無だけでなく、運動習慣別に比較しています。

2018年3月〜2020年3月に少なくとも3回の運動資料があり、2020年1月〜2021年10月に新型コロナウイルスに罹患したKPSCヘルスプラン加入者48,440人が対象です。運動量は自己申告です。0-10分/週(不活動)、11-149分/週(少し活動)、150分以上(活動)に分けています。

多変量で補正した後の成績です。活動する人に比べて不活動の人の入院率は2.26倍、ICU入室率は1.73倍、死亡が2.49倍でした。

少し活動する人と比べても、入院率1.20倍、ICU入室率1.10倍、ICU入室率1.32倍です。

基礎疾患がある方は運動量も低くなりやすいのでバイアス(統計学の偏り)がかかりそうです。しかし基礎疾患有無で補正していますし、運動しないリスクが基礎疾患によるリスクより高く出ていて、運動の影響は実際にありそうです。

人の少ない場所の散歩はコロナ感染のリスクが小さいです。ぜひ運動を続けましょう。


令和3年4月17日

DPP4阻害薬とコロナウイルス感染症

ウイルスが細胞に感染する時、ウイルスが最初にすることは「細胞にくっつく」ことです。ウイルスは細胞にくっつく仕組みを開発しています。

コロナウイルスで言うと「外側のスパイク糖蛋白」が私たちの細胞表面にある特定の標的に結合します。標的にされた構造物をウイルス受容体と呼んでいます。

新型コロナウイルスが流行する前に重篤な呼吸器症候群を起こしていたコロナウイルスに、広東省起源のSARS(重症急性呼吸器症候群)とラクダが媒介するMERS(中東呼吸器症候群)があります。

話を簡略にしていますが、SARSは細胞表面のACE2に結合します。MERSはDPP4と結合します。ACE2、DPP4がそれぞれのウイルスの受容体ですね。新型コロナウイルスの受容体は、発見当初ACE2だろうと推定されました。

新型コロナウイルスのスパイク糖蛋白はSARSとMERSの中間で、お互いによく似ています。このことから、新型コロナウイルスは、ACE2以外にDPP4にも結合するのではないかと仮定されました。

スパイク蛋白の結晶構造の解析から、新型コロナウイルスのスパイク蛋白はDPP4に対する親和性も高く、DPPに結合するドメインはMERSと同じと発表されました(iSience 2020)。

新型コロナウイルス重症感染者では血中の可溶性DPP4が減少していると報告されました(242.70、健常人497.70ng/ml)。敗血症も重篤な感染症ですが、新型コロナウイルス感染症と違い、敗血症では可溶性DPP4の減少を認めませんでした(Int J Obesity 2020)。新型コロナウイルス感染によってDPP4が何等かの影響を受けていることが推定されます。

重症の新型コロナウイルス感染症で入院した人にジャヌビア(DPP4阻害薬)を投与してその効果をみた研究があります(Diabetes Care 2020)。北イタリアの7つの病院の研究で、338人の入院患者が対象です。標準治療はインスリン療法ですが、半数の169人にジャヌビアも投与しました。結果は素晴らしいもので、ジャヌビアは死亡率を減らし(18%、対照37%、ハザード比0.44)、臨床スコア改善も多く(60%、対照38%)、退院者(120人、対照89人)も多い結果でした。

現在DPP阻害剤の研究が進行中です。もしこの研究の指し示すものが本当ならとても頼もしいと思います。


令和2年12月16日

密接ってなぁに? 復習しましょう

新型コロナウイルスの基本的な感染力はそれほど高くありません。しかし、条件が揃うと感染力が高くなると考えられています。その条件をまとめたものがいわゆる3密と言われるものです。密閉・密集・密接です。最初の2つは言葉だけで何となく理解できますが、最後の「密接」は分かりにくい言葉です。

おさらいしておきましょう。最後の密接は「会話や発声を伴うもの」です。日本の専門家たちは疫学的に「会話・発声がある」とクラスター発生率が高まることを発見しました。これは大ヒットだと思います。

感染者からコロナウイルスが排出される条件を考えてみましょう。

季節コロナウイルス感染患者を30分間部屋に閉じ込め、高精度の機器で飛沫、エアロゾルを回収してウイルスRNAを検査した実験があります(Nature Med)。マスクなしの状態でウイルスRNAを排出していたのはわずか35%、咳をしなかった人では飛沫やエアロゾルにウイルスRNAは見つかりませんでした。

この実験では被験者を1人ずつ部屋に閉じ込めています。おそらく会話はなかったでしょう。会話がない場合、咳(+くしゃみ)がないとウイルスは外に出ないようです。

会話で飛沫が周囲に飛ぶ動画をご覧になられた方は多いと思います。感染者から飛沫を多く浴びると感染が成立し、クラスターが発生しやすくなります。この会話を避けるのが、密接を避ける行動です。

濃厚接触の定義は1m以内、15分以上です。社会的距離がとれない場合、マスクをしましょう。会話は短時間に留めましょう。

マスクは飛沫を出にくくします。中国家庭内クラスターの解析では常時マスクをしていると感染リスクが2割に減ります。米国海軍の報告でもリスクが3割になります。新型コロナウイルスの感染力は発症2日前から高くなります。社会的距離がとれない場合、お互いに症状がなくてもマスクをすることがリスクを下げます。


最後に二次感染率とウイルス株のデータを紹介しておきます。

二次感染率は家庭内で高くなりますが、一般社会ではそれほど高くありません。WHO-中国の報告で1-5%(家庭内3-10%)、米国で0.45%(同10.5%)、韓国で0.55%(同7.6%)、台湾で0.7%(同4.6%)です。

我が国でも75.4%の人は誰にも感染させていないと報告されています(厚生労働省の対策班の研究者グループ)。

最初に武漢から日本に伝播したウイルス株は強い自粛生活をしない時期に消滅しています(その後の流行は欧州由来株です)。適切な対応をとるとウイルスが消える可能性があります。