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グリタゾンは認知症を予防する?

グリタゾンはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の薬です。我が国ではピオグリタゾン(アクトス)が使われています。外国ではピオグリタゾンに加えてロシグリタゾンが使われたことがあります。

最近、グリタゾンが認知症予防に働くという論文がでましたので、紹介します。

最初の論文(BMJ 2022)は米国退役軍人の成績です。2001年から2017年の治療記録から解析しました。対象は60歳以上、認知症のない2型糖尿病の方です。実臨床のビッグデータ解析です。

平均年齢65.7歳、559,106人の経過観察中に、8.2人/1000人・年の認知症が発症しました。メトホルミン服用者を基準に比べました。そうしますと、少なくとも1年間グリタゾンを服用した方は22%認知症が少なくなりました。逆にSU剤服用者は12%認知症が多くなりました。アルツハイマー型認知症、血管性認知症と認知症の原因別にみても同様でした。

2つ目の論文は韓国からの報告(Neurology 2023)です。

韓国国民健康保険データのビッグデータ解析です。平均10年観察して、ピオグリタゾン服用者は16%ほど認知症が少なくなる結果でした。

50歳以上で新しく2型糖尿病を発症した、認知症がない91,218人が対象です(2002-2017年の記録)。糖尿病を発症してから4年以内にピオグリタゾンを服用した人は8.3%認知症を発症し、ピオグリタゾンを服用しなかった人は10.0%認知症を発症しました。ハザード比は0.84(0.75-0.95)です。ピオグリタゾン服用量の多い人ほど認知症が少ないという、用量依存性が確認できました。

ピオグリタゾン服用者の認知症減少は、虚血性疾患や脳卒中の既往がある人でさらに強く認められました:それぞれのハザード比は0.46(0.24-0.90)、0.57(0.38-0.86)でした。脳卒中発症もピオグリタゾン服用者で減少しました(ハザード比0.81)。


令和5年3月9日

コレステロールのサプリ

米国のコレステロールサプリの話です。

米国でよく使われているサプリの効果を、偽薬またはクレストール(ロスバスタチン:スタチン系薬剤)の効果と比較しています(JACC 2022)。

研究に参加したのは心血管系イベントがない40-75歳の人で、LDLコレステロール値は70-189mg/dlでした。

参加者を無作為に(ランダム化)1:1:1:1:1:1:1:1に分け、クレストール5mg、偽薬、サプリ(魚油、シナモン、ガーリック、ターメリック、植物ステロール、紅麹米)* のいずれかを28日間、摂ってもらいました。

190人が薬あるいはサプリの摂取を完了しました。クレストールを服用した人は偽薬、サプリを摂取した人と比べてLDLコレステロールの低下が大きく、偽薬と比べて35.2%低下しました。サプリについては、どのサプリを摂取した人も偽薬と比べてLDLコレステロールの有意な変化はありませんでした

米国はサプリ大国で、サプリに毎年500億ドル費やされているそうです。しかし米国で売られているサプリにはコレステロールを下げる効果を期待できないようです。日本のサプリも同じかもしれません。


令和5年2月10日

* 研究で使われたサプリ商品
魚油:Nature Made fish oil 2400mg
シナモン:Nutriflair brand cinnamon 2400mg
ガーリック:Garlique brand garlic (5000mcg allicin)
ターメリック:BioSchwartz brand turmeric curcumin (bioperine 4500mg)
植物ステロール:Nature Made CholestOffPlus (1600mg plant sterols)
紅麹米:Arazo Nutrition brand red yeast rice 2400mg

SGLT2阻害薬は尿路結石を減らす

SGLT2阻害薬を飲んでいる人は尿路結石が少ないかもしれません

最初に報告したのはオランダの人たちです(Diabetologia 2021)。それぞれ12,325人を対象に、SGLT2阻害薬とGLP1作動薬の効果を2年間比べました。

SGLT2阻害薬を服用している人は、対照(GLP1作動薬を使っている人)に比べて、尿路結石のリスクが半分から2/3(発症のハザード比0.51、再発のハザード比0.68) に減っていました

この研究のSGLT2阻害薬はおもにダパグリフロジン(フォシーガ)とエンパグリフロジン(ジャディアンス)で、この2つの薬剤間で差はありませんでした。

この報告に着目して、新しい研究が追加報告されました(JCEM 2022)。この報告は、SGLT2阻害薬をエンパグリフロジンに絞り、20編の無作為試験報告からメタ分析しています。

糖尿病患者15,081人の解析です。エンパグリフロジン群が10,177人、プラセーボ(偽薬)群が4,904人です。観察期間はそれぞれ549日、543日です。観察期間中にそれぞれ104人、79人の尿路結石が発症し、その発症率はエンパグリフロジン群が0.63/100人・年、プラセーボ群が1.01/100人・年であり、発症率の比は0.64(0.48-0.86)でした。

つまりエンパグリフロジンを服用している群は尿路結石が4割少なく、最初の研究を後押しする結果でした。 

SGLT2阻害薬で尿路結石が減る理由についてです。尿量が増えることが一番の理由と考えられますが、それ以外の機序も考えられるそうです。


令和4年8月30日

SGLT2阻害薬とGLP1作動薬の併用

まだ学会発表(American College of Cardiology 2022)の段階ですが、ちょっとびっくりする発表がありましたので紹介します。

動脈硬化が進んでいる糖尿病の人を対象に行われた「SGLT2阻害薬とGLP1作動薬」の研究で、両者を併用した人は単独使用の人に比べて全死亡、脳心血管イベントが大幅に減少したという発表です。

SGLT2阻害薬、GLP1作動薬は共に心血管イベントを減らします併用するとさらに良い結果が得られるのではないかと考えて研究が始まりました

対象は米国退役軍人です。虚血性心疾患、脳卒中、末梢血管障害を有する糖尿病患者で、SGLT2阻害薬、GLP1作動薬のみを処方されている121,174人を選びました。43.7%がSGLT2i単独、29.3%がGLP1作動薬、26.9%が両薬併用でした。

この中から傾向マッチングさせた3群(SGLT2阻害薬単独処方群、GLP1作動薬単独処方群、両者併用処方群)各5,277人を選びました。マッチングは年齢、性別、心左室機能(LVEF)、HbA1c、収縮期血圧、それに冠動脈疾患か末梢動脈疾患に基づいて行われました。

平均年齢は67歳、97%が男性、BMI 34kg/m2と肥満があり、HbA1c7.9%、腎機能eGFR55-66ml/分/1.73m2、LVEF 55%で、平均追跡期間は902日でした。

SGLT2阻害薬は主にジャディアンスが処方されていました。GLP1作動薬(全て注射薬)はビクトーザ、オゼンピック、トルリシティが多く、バイエッタは5%未満でした。

主要評価項目は、全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中です12ヶ月後の評価で、併用群はSGLT2阻害薬単独群に比べて46%、GLP1単独群に比べて主要評価項目が49%少ない結果でした

併用による減少は主に全死亡の減少によるもので、全死亡だけに限るとそれぞれ83%、81%少ない結果でした。

まだ学会発表の段階で、はっきりしたことは言えないのですが、併用療法は単独療法より、脳心血管保護作用が強い可能性があります。今後の研究に期待します。


令和4年5月9日