院長ブログ一覧

オルフォグリプロンの第3相治験

オルフォグリプロンの第3相治験が終了し、その結果が4月17日付でリリー社のホームページに掲載されました。

オルフォグリプロンは経口のGLP1受容体作動薬です。同様の薬にノボ社のリベルサスがありますが、リベルサスと違って飲む時の制約(空腹時に飲む、30分は飲食不可)がありません。1日1回服用の薬です。中外製薬が発見しました。

服用期間は40週で、治療前の平均HbA1c、平均体重は8.0%、90.2kgでした。オルフォグリプロンは3、12、36mgが使われました。偽薬(プラセーボ)と比較して、HbA1c低下の有効性推定値はそれぞれ1.3、1.6、1.5%(偽薬群 0.1%)でした体重減少の有効性推定値はそれぞれ4.4kg(4.7%)、5.5kg(6.1%)、7.3kg(7.9%)(偽薬群 1.3kg)でした。体重減少は治験終了時でまだ続いていて、さらに下がる可能性があります。

最も多くみられた有害事象は消化器系で、これはGLP1受容体作動薬に共通しています。下痢は、3、12、36mg 投与群でそれぞれ 19%、21%、26%(偽薬群 9%)でした。吐き気はそれぞれ13%、18%、16%(偽薬群 2%)、嘔吐はそれぞれ 5%、7%、14%(偽薬群 1%)でした。下痢が多い印象がいあります。有害事象による治療中止は、それぞれ6%、4%、8%(1%)でした。肝機能に関する安全性の問題は認められませんでした。

肥満治療薬としては今年末、糖尿病薬としては来年に世界各国で申請予定とのことです。


令和7年4月23日

チルゼパチドの糖尿病予防効果はとても大きい

チルゼパチド(マンジャロ)という糖尿病の薬があります。 「GLP1受容体作動薬+GIP受容体作動薬」の働きをもつ薬ですが、多様な働きがあることが知られています。米国では抗肥満薬としても使われ、その場合はマンジャロでなく、ゼップバウンドという名前で販売されています。

チルゼパチドを3年間使用して、体重への効果、2型糖尿病の発症、安全性を検討した論文が発表されましたので、紹介します(NEJM 2024)。

第3相治験の成績です。対象者は2539人で、うち1032人が糖尿病予備軍です。治験は無作為二重盲検法で行われました。チルゼパチド5mg、10mg、15mg、偽薬(プラセーボ)群に1:1:1:1に振り分け、チルゼパチドあるいは偽薬を176週投与し、投与中止後17週まで観察しました。

176週の時点で、チルゼパチド5mg、10mg、15mg群および偽薬群は、-12.3%、-18.7%、-19.7%、-1.3%の体重変動がありました。分かりにくい書き方ですが、チルゼパチドの減量効果が高いことがわかります。

糖尿病発症に対する効果を検討しました。偽薬群では13.3%の人が糖尿病を発症しましたが、チルゼパチド群(全体)はわずか1.3%でした。発症予防効果は93%でした。投与中止後17週で検討すると、糖尿病発症はそれぞれ13.7%、2.4%でした(発症予防効果88%)。

最も多かった副反応は軽度〜中等度の消化管症状で、チルゼパチドを増量していく最初の20週に多くみられました。新しく発見された副反応はありませんでした。


令和7年1月22日

GLP1受容体作動薬による依存症治療の可能性

GLP1受容体作動薬を使っている人は依存症リスクが下がるようです。アルコール、コカイン、オピオイド依存症への期待は、エキセナチド(バイエッタ)、リラグルチド(ビクトーザ)など第一世代のGLP1受容体作動薬が使われるようになったころからささやかれていましたが、セマグルチド(オゼンピック)など第2世代のGLP1受容体作動薬が使われるようになって、期待が大きくなりました。今回、アルコール使用障害に対する論文が出ましたので紹介します(JAMAPsyciatry 2024)。

スエーデン全国規模の住民対象研究です。2006年1月から2023年12月までのデータ解析で、16-64歳の227,866人、全員がアルコール使用障害です。平均年齢40歳、フォロー期間8.8年、男性63.5%です。フォロー期間中に133,210人(58.5%)がアルコール使用障害で入院しました。

スエーデンは歴史的にアルコール依存症が多い国です(Scandinavian journal of public health 2008)。男性の8.6%、女性の4.5%が大酒飲みで、男性の4.1%、女性の2.5%がアルコール依存症と報告されています。

論文紹介に戻ります。GLP1受容体作動薬の効果ですが、セマグルチドを使っている人、次にリラグルチドを使っている人でアルコール使用障害や物質使用障害で入院するリスクが少なくなっていました。アルコール使用障害、物質使用障害で入院するリスクはセマグルチドでそれぞれ0.64、0.68、リラグルチドで0.72、0.78でした。アルコール依存症の薬では入院リスク0.98とわずかしか下がらず、GLP1受容体作動薬と大きく違っていました。身体的問題で入院するリスクもセマグルチド、リラグルチドを使っている人で0.78、0.79と少なくなっていました。

肥満/糖尿病でセマグルチドやリラグルチドを使っている人は飲酒に伴う入院が少なく、依存症の治療に使えるかもしれません。結論付けるにはまだまだ研究が必要ですが、効果が認められて使えるようになると良いですね。


令和6年12月27日

「GLP1+グルカゴン」受容体作動薬とMASH(NASH)

NASH(non-alcoholic steatohepatitis:非アルコール性脂肪性肝炎)は、最近MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)と呼び方が変わっています。MASHに対して、「GLP1+グルカゴン」受容体作動薬の効果が期待されていますので紹介します。

これまでMASHに対して、GLP1受容体作動薬であるセマグルチド(オゼンピック)の効果が発表されていました。セマグルチドは40-59%の患者さんでMASHの肝障害を改善させますが、肝線維化の改善までは難しかったのです。

そこで登場したのが、GLP1受容体だけでなくグルカゴン受容体にも作用するチルゼパチド(マンジャロ)とスルボデュチドです。この2つの「GLP1+グルカゴン」受容体作動薬は、肝線維化の改善も見込めるようです(NEJM 2024)。

チルゼパチドはstage2-3のMASH患者190人で検討しています。観察期間は52週です。肝線維化の悪化がなく、MASHが改善した人は、チルゼパチド5mg、10mg、15mgの注射で、それぞれ44%、56%、62%でした(偽薬(プラセーボ)で10%)。また、チルゼパチドを注射したおよそ半分の患者で、MASHの悪化がなくて線維化が1ステージ以上改善していました(偽薬(プラセーボ)では30%)。15mgの注射で体重は16%減少しました。チルゼパチドを最後まで継続した人は87%でした。

スルボデュチドはstage1,2,3のMASH患者293人で検討しています。観察期間は48週です。肝線維化の悪化がなく、MASHが改善した人は、スルボデュチド2.4mg、4.8mg、6.0mgの注射で、それぞれ47%、62%、43%でした(偽薬(プラセーボ)で14%)。また、スルボデュチド6.0mgを注射した32%の患者で、MASHの悪化がなくて線維化が少なくとも1ステージ改善していました(偽薬(プラセーボ)では18%)。スルボデュチドで体重は10-13%減少しました。スルボデュチドを最後まで継続した人は70%でした。

ともに少人数での検討です。大規模研究が期待され、もっと長い期間での検討、薬の中止時期の検討、費用対効果の検討などが必要ですが、前途有望です。


令和6年8月15日