院長ブログ一覧

新しい糖尿病治療薬の期待:アッチリ先生の講演から

5年前にインスリン分泌細胞の脱分化(先祖返り)について紹介しました。「グルカゴンの不思議」というタイトルでしたが、覚えておられますでしょうか。

簡単に説明しますと「血糖が上がっている状態が続くと、血糖を下げるインスリンを分泌する細胞が、血糖を上げるグルカゴンを分泌する細胞にかわってしまう」という、糖尿病にとってはとんでもない現象です。

この研究を行ったのがアッチリ先生です。アッチリ先生は今年の日本糖尿病学会(平成30年5月)に来日されて特別講演をされました。その中でこの脱分化がどうして起こるのか詳しく説明され、今後の糖尿病治療の展望にこの脱分化を防ぐ薬を上げられました。

アッチリ先生はこの他にも、新しいタイプのインスリン感受性促進薬が可能であることを基礎実験で示され、また1型糖尿病の治療についても言及されました。

どこまで現実の治療薬としての研究が進んでいるかはわかりませんが、できるといいですね。ぜひ期待したいと思います。


平成30年6月6日

GLP-1製剤の飲み薬が開発中です

糖尿病薬の一つにGLP-1製剤があります。バイエッタ、リキスミア 、ビクトーザ、ビデュリオン、トルリシティが代表的な薬です。インクレチン作用を高めるという点でDPP-4阻害薬と共通しますが、DPP-4阻害薬より効果が強いお薬です。残念なことにDPP-4阻害薬と違って注射薬しかありません。

現在、GLP-1製剤の飲み薬の開発が進められています。以前にセマグルチド注射薬(ノボ社:日本未発売)を紹介しましたが、この薬を飲み薬にした治験が第3相まで進行しています。今年に発表が予定されていて、うまく進めば2020年に発売予定です。

服用してから30分は食事が摂れないこと、吐き気をおこす可能性なども言われていますが、DPP-4阻害薬を上回る効果が期待されています。


注)DPP-4阻害薬はジャヌビア、グラクティブ、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリア、スイニー、オングリザ、それにザファテック、マリゼブなどです。

注)第3相治験は、その薬を使うであろう患者を対象に、有効性、安全性の検討を主な目的にして、それまでの治験より大きな規模で行われます。第3相治験が無事通過できれば、承認に向けた手続きが行われます。


平成30年2月23日

世界的に見た糖尿病:糖尿病アトラス2017年

国際糖尿病連合(IDF)が新しい糖尿病アトラスを発表しました(IDF Diabetes Atlas Eighth edition 2017)。世界的に見た糖尿病が載っています。

今回糖尿病患者さんの数は18-99歳の年齢層で推計され、これまでの20-79歳より拡張して報告されています。

全世界には現時点で4億人を超える糖尿病患者さんがいます。2045年にはさらに増えて、〜7億人と予測されています。糖尿病は富裕国だけの問題ではなくなっています。重荷の8割は中〜低所得国にかかっています。糖尿病は高齢者に多く 65歳以上の人が1/3を占めますが、妊娠糖尿病(妊娠に伴う糖尿病)も増えていて、アフリカでは妊婦10人に1人、南東アジアでは4人に1人が妊娠糖尿病です。

糖尿病患者さんの数が多い国は、中国、インド、米国の順で、これはこれまでと変わりません。さらにみていくと、ブラジル、メキシコ、インドネシア、ロシア、ドイツ、エジプトと続き、日本は第10位です(18-99歳の年齢層)。

「20-79歳の年齢層」で推計すると、日本はトップテンから脱落します。第1-9位の国はそのまま残るのですが、第10位がパキスタンです。

糖尿病をわずらっている人の割合(有病率)が高い国はマーシャル群島、ツバル、トケラウの順で、5位までが太平洋にある島国です。

高齢者の多い国では糖尿病の有病率が高くなります。そのため有病率を国別に比較するときは年齢構成で補正します。補正糖尿病有病率(18-99歳)の高い国はマーシャル群島、ツバル、ニウエ、トケラウ、ナウルの順でやはり太平洋の島国でした:これらの国々の補正糖尿病有病率は29-23%になります。

日本の糖尿病患者数が多いのは高齢者が多いためです。有病率を年齢構成で補正しますと(18-99歳)、世界221ヶ国中の第160位でした。


平成29年12月6日

GLP1製剤による心血管イベント、心血管死の抑制(続)

以前に「リキスミア(リキセナチド)は心血管系イベントを抑制しないが、ビクトーザ(リラグルチド)、セマグルチドはこれを抑制する」ことを紹介しました。今回はこの続きです。リキスミアの1週間製剤であるビデュリオンの報告が出ました(NEJM 2017)。

この研究では、14,752人(北米25%、南米18%、ヨーロッパ46%、アジア10%)、平均62歳(38%が女性)、平均肥満指数(BMI)32kg/m2、平均罹病機関12年の人が対象です。

主要評価項目は心血管系疾患による死亡、非致死性の心筋梗塞・脳卒中です。平均3.2年観察していますが、ビデュリオンに主要評価項目の抑制効果はありませんでした(主要評価項目はビデュリオン群で11.4%、偽薬群で12.2%におこり、相対リスク0.91)。

これまでの成績と合わせますと、ビクトーザやセマグルチドには心血管系イベントの抑制効果があり、リキスミア、ビデュリオンにはなさそうです。製品による違いでしょうか。それとも研究デザインの違いでしょうか。同じ使うなら、抑制効果のありそうな薬剤の方を使いたいですね。


平成29年10月6日