院長ブログ一覧

肝線維化がまだ進んでいない脂肪肝の人の安全な飲酒量

肝臓の線維化を示す指数にFIB-4指数があります。高齢者でこの指数を使うと過剰評価になったり、AST/ALT比がこの指数に大きく影響するなど、線維化の厳密な指標にならないのですが、AST、ALT、血小板数、年齢から簡単に計算されるので便利です。このFIB-4指数を用いて軽度の脂肪肝の人の飲酒安全量を検討した成績が発表されましたので紹介します(JAMA Network Open 2023)。

コホート(研究対象集団)は米国国民健康栄養調査(NHANESIII1988-1994)で、2019年12月31日まで観察しています。脂肪肝を腹部超音波検査で確認した 2834人(968人が白人、1467人が男性)が今回の対象です。肝線維化マーカーのFIB-4指数を計算し、1.3未満を肝線維化の低リスク群、1.3以上を肝線維化の中等度〜高度リスク群としました。肝線維化の中等度〜高度リスク群は、脂肪肝患者のうち20.8%(591人)でした。

経過観察期間は〜26年です。死亡した人は、肝線維化の低リスク群(1099人/10万人)に比べて 肝線維化の中等度〜高度リスク群(4342人/10万人)で多くなっていました。地理的、代謝的変数を補正して、飲酒量と死亡リスクを検討しました。

肝線維化の低リスク群では、飲酒量が純アルコール量換算で7.4gを超えると死亡リスクが1を超えました肝線維化の中等度〜高度リスク群ではどのアルコール量でも死亡リスクが1を超えました

FIB-4指数、飲酒量などの値は観察開始時の値だけを使用していることなど、解釈に制約はありますが、純アルコール7.4gは少ない量です。厚生労働省は生活習慣病のリスクを高める飲酒量として40g(女性は20g)までの飲酒を勧めていますが、それよりずっと少ないですね。


令和6年7月27日

自分のHbA1c値を覚えてますか?

HbA1cは過去1-2ヶ月間の平均血糖を教えてくれる検査で、とても重要な糖尿病コントロール指標です。

自分のHbA1c値を知らない人が案外多いという調査結果が報告されました。米国の話で、日本と事情が異なるかもしれませんが、紹介します。

分析に用いられたのは、2013-2020年の米国国民栄養調査です。この調査で、糖尿病とすでに診断されている成人の22%が自分のHbA1c値を知らないと答えました。

自分のHbA1cを知らない人は白人以外の人種に多く、低所得層、正規教育を受けていない人が多くいました。自分のHbA1c値を知っている人でも、覚えている値と調査時に測定したHbA1c値が少しずれていました(相関が中等度に留まりました)。

当院でも、紹介状を持たずに来られた方にHbA1c値を尋ねて「知らない」と答える方がおられます。

糖尿病を良くするには、自分のコントロール状態を知り、自分自身も糖尿病治療に参加することが大切です。ご自分のHbA1c値を覚えてられない方は、ぜひ検査結果を見直しておきましょう。


令和5年6月21日

新型コロナウイルス暴露からの時間とPCR検査の偽陰性率

新型コロナウイルスのPCR検査について、ずいぶん情報が集まってきました。PCR検査の感度は70%前後と言われ、それほど高くありません。特異度について報告はないようですが、低く見積もっても95%、実際はもっと高いと言われています。

感度は「感染者を陽性と正しく検出できる確率」を示します。感度と同じような概念に偽陰性率があります。偽陰性率は「感染者を誤って陰性と判定する確率」で、感度を裏からみた数字になります(100%―感度%)。特異度は「非感染者を正しく陰性と判定できる確率」を示します。

ジョンズ・ホプキンス大学から、PCR検査の偽陰性率を検討した報告が出ました。この報告はPCR偽陰性率がウイルス暴露からの時間経過でどのように変わるかをみています。

潜伏期を5日と仮定し、暴露日からの日数で集計しています。暴露翌日は偽陰性率100%です。暴露後4日経過しても偽陰性率は67%(27-94%)と高いままです。暴露後5日(発症日)で38%(18-65%)、暴露後8日に20%(12-30%)と最も低くなり、その後徐々に増加して暴露後21日は66%(54-77%)でした。

この結果を実際の場面で考えてみます。

Aさんが感染しているかもしれないとして、PCR検査を受けたとします。この時、PCR検査が陰性でも感染している可能性があります。陰性の判定が出た場合のAさんの感染確率は、Aさんの感染がどのくらい疑わしいか(検査前感染確率)によって変わります。

Aさんの検査前感染確率を44%とします(半分くらい疑っている感じです)。暴露後8日のAさんのPCR検査が陰性の場合、Aさんが感染している確率は14%です。発症日に検査を受けて陰性なら、Aさんの感染確率は23%です。


令和2年5月27日

糖尿病の歴史14 (尿糖測定法の開発)

尿糖がブドウ糖であることを発見したのはシュヴルールです(1815年)。

尿糖(ブドウ糖)測定法は、1830年にカール アウグスト トロマーによって開発されました。測定原理は熱-銅還元法です。ブドウ糖はアルカリ性溶液中で環状構造から鎖状構造に変化し、還元作用を有するアルデヒド基(-CHO)が生じます。このアルデヒド基による還元作用によって重金属塩が沈殿し、固有の色調を呈するわけです。トロマー法は、のちにフェーリングによって改良されます。

しかしながら一般臨床医に好まれたのはもっと簡単な方法のようです。1862年、ウィリアム ロバーツによって尿糖酵母法が発表されました。尿に酵母を加えると、発酵してブドウ糖が消費されます。これを比重の変化で簡易測定する方法です。

尿+酵母 24h→ 比重低下(x0.23)

ともあれ尿糖検査が開発されたおかげで、臨床医は尿を舐める必要がなくなりました。


附)
私が卒業した頃の阪大では診察室の裏で尿糖を測定していました。最初に尿糖検査紙(テステープ)を使います。尿糖が少ない場合はこれで終了ですが、尿糖が多い場合は飯塚氏法簡易尿糖定量法(還元法)を追加しました。試験管に飯塚氏液をとり、加熱しながら少しずつ尿を滴下して色の変化に要した尿滴下数を勘定しました。昔の思い出です。


平成27年6月5日

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