コレステロールのサプリ
米国のコレステロールサプリの話です。
米国でよく使われているサプリの効果を、偽薬またはクレストール(ロスバスタチン:スタチン系薬剤)の効果と比較しています(JACC 2022)。
研究に参加したのは心血管系イベントがない40-75歳の人で、LDLコレステロール値は70-189mg/dlでした。
参加者を無作為に(ランダム化)1:1:1:1:1:1:1:1に分け、クレストール5mg、偽薬、サプリ(魚油、シナモン、ガーリック、ターメリック、植物ステロール、紅麹米)* のいずれかを28日間、摂ってもらいました。
190人が薬あるいはサプリの摂取を完了しました。クレストールを服用した人は偽薬、サプリを摂取した人と比べてLDLコレステロールの低下が大きく、偽薬と比べて35.2%低下しました。サプリについては、どのサプリを摂取した人も偽薬と比べてLDLコレステロールの有意な変化はありませんでした。
米国はサプリ大国で、サプリに毎年500億ドル費やされているそうです。しかし米国で売られているサプリにはコレステロールを下げる効果を期待できないようです。日本のサプリも同じかもしれません。
令和5年2月10日
* 研究で使われたサプリ商品
魚油:Nature Made fish oil 2400mg
シナモン:Nutriflair brand cinnamon 2400mg
ガーリック:Garlique brand garlic (5000mcg allicin)
ターメリック:BioSchwartz brand turmeric curcumin (bioperine 4500mg)
植物ステロール:Nature Made CholestOffPlus (1600mg plant sterols)
紅麹米:Arazo Nutrition brand red yeast rice 2400mg
フィブラート系薬剤は心血管イベントを減らさない !?
中性脂肪が高くなると心血管イベント(心筋梗塞など)が増えます。しかし中性脂肪を下げる薬が心血管イベントを減らすかどうかはよく分かっていません。
これまでナイアシン製剤、フェノフィブラートが中性脂肪を減らしながらも、心血管イベントを減らさなかったことが報告されています。ただ、サブ解析から糖尿病をもつ人では何がしかの効果があるのではないか、と推定されていました。
今回、糖尿病の人を対象にペマフィブラート(パルモディア)が心血管イベントを減らすかどうかを検討した成績が報告されましたので、紹介します(NEJM 2022)。
ペマフィブラートは日本で開発された薬です。フィブラート系薬剤はPPARαに作用しますが、ペマフィブラートはPPARαに対する選択性が高く、注目された薬です。
今回の研究の対象は、2型糖尿病があり、中性脂肪200-499mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl以下の方です。ペマフィブラート投与前の空腹時中性脂肪は平均271mg/dl、HDLコレステロールは平均33mg/dlでした。66.9%に心血管疾患があります。全員で10,497人、観察期間は〜3.4年でした。
プラセーボ(偽薬)と比較して、ペマフィブラート投与群では投与開始して4ヶ月で中性脂肪が26.2%減少、VLDLコレステロールが25.8%減少、レムナントコレステロールが25.6%減少。アポリポ蛋白C-IIIが27.6%減少しました。動脈硬化に関与するアポリポ蛋白Bは+4.8%と減少を認めませんでした。
主要評価項目は非致死性の「心筋梗塞+脳梗塞+冠動脈治療」、心血管死です。主要評価項目はペマフィブラート群で572人、偽薬群で560人起こり、ハザード比は1.03(0.91-1.15)、両群間で差を認めませんでした。
今回の対象集団では、コレステロールを下げるスタチンが95%の人に処方されています(強力スタチンは69%の人に処方)。スタチンが処方され、強力な脂質低下療法を受けている人では、ペマフィブラートで中性脂肪が下がっても、心血管イベントを抑える効果はないようです。
令和4年11月22日
若い頃のコレステロール (続)
若い時のコレステロールが動脈硬化に大きく関連するという研究は昨年も発表されています(J Am Coll Cardil 2020)。
4,958人(18-30歳)を1985-1986年に登録し、16年追跡した研究(CARDIA)です。
275人が心血管疾患を発症しています。LDLc暴露面積(LDLcx年)のハザードリスクは1.053(100mg/dlx年ごと)、LDLc勾配とは0.797(mg/dl/年ごと)でした。LDLc暴露量が平均より多く、年齢とともにLDLcが下がっている人が最も多く心血管疾患を発症していました。
若い時のLDLcの方が影響が強く、動脈硬化を予防するには若い時期からLDLcをコントロールする必要がありそうです。
日本人で考えてみますと、「今の高齢者」が若い頃は、コレステロール値が低めでした。「今の若い人」は同年齢の米国人よりコレステロール値が高くなっています。若い人の食育は大切に思います。
動脈硬化疾患はこれからどんどん増えていくかもしれません。
令和3年10月11日
若い頃のコレステロール
LDLコレステロール(LDLc)が高くなると、動脈硬化が促進します。中年以降になってLDLc値を気にされる方が多くなりますが、実は若い頃のLDLcも大切です。
米国4つのコホートを合わせて解析した論文が発表されましたので紹介します(JAMA Cardiol 2021)。
対象は18,288人、平均56.4歳(56.4%が女性)、平均追跡期間16年です。18-60歳の間に2年以上の間隔で少なくとも2回LDLcを測定し、40-60歳で1回以上のLDLcを測定した人たちです。
心血管疾患が1165例、脳梗塞が599例、心不全が1145例、起こっています。最も近い採血でのLDLcで補正した場合のハザードリスクを計算しますと、最も高値群と低値群の比較で、
累積暴露LDLcで1.57(P=0.01)、時間荷重平均LDLcで1.69(p<0.001)でした。LDLc勾配とは無関係でした。心不全や脳梗塞とは関連が認められませんでした。この成績は若い時のLDLcコントロールが将来の心血管疾患予防に大切なことを示しています。
高コレステロール血症の治療では10年間の虚血性心疾患リスク(吹田スコア)をみることが多いのですが、もっと長い時間の影響を考えるのが良いかもしれません。
令和3年10月11日