院長ブログ一覧

糖尿病と新型コロナウイルス感染症

糖尿病があると新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいことが知られています。調査対象を糖尿病患者さんに絞った詳しい分析が報告されましたので紹介します。英国の糖尿病患者さんの98%が含まれる膨大なデータの解析です(Lancet 2020)。

調査期間は2月16日〜5月11日です。英国で一般診療を受けている1型糖尿病264,390人、2型糖尿病2,874,020人のうち、それぞれ464人、10,525人が新型コロナウイルス感染症で亡くなりました。

超過死亡も急増しています。超過死亡というのは、普段の年よりどのくらい亡くなられる人が増えているかを見たものです。大ざっぱですが、他の病気が増えていないと仮定した場合「コロナと診断がつかずに亡くなられた人も含む指標」になります。その超過死亡ですが、糖尿病患者の死亡者数は過去3年の同時期と比べて1型糖尿病で50.9%、2型糖尿病で64.3%増えています。

新型コロナウイルス感染で亡くなるリスクが高いのは、男性、高齢、腎障害、非白人、貧困、脳卒中既往、心不全既往がある人です。

男性は女性より重症化しやすく、1型、2型糖尿病とも男性の危険率は1.61でした。年齢の影響はとても大きく、60歳代の人を基準にすると、70歳代の危険率は1型糖尿病で1.89、2型糖尿病で1.94、80歳以上では1型糖尿病で4.79、2型糖尿病で4.52でした。

糖尿病コントロールが悪いのも良くありません。HbA1c7.6%以上で死亡リスクが高くなりました。HbA1c 6.5%の人に比べて、HbA1c10%超の人の危険率は1型糖尿病で2.23、2型糖尿病で1.61でした。

BMI(体格指数:体重kg/(身長mx身長m))の危険率はU字型を示し、痩せすぎと肥満で高くなりました。最もリスクが低いのがBMI25.0-29.9でした。英国では肥満が悪いとして、コロナの重症化リスクを下げる政策:肥満解消キャンペーンをしています。

なおBMIについてはちょっと注意が必要です。日本人はそれほど太ってなくても肥満の影響が出ます。そのため肥満の基準は日本では欧米より厳しくなっています(日本ではBMI25以上、欧米では30以上が肥満)。コロナウイルス感染症において日本ではどちらの数字で考えるのが良いかは分かりません。


令和2年8月28日

糖尿病、高血圧と新型コロナウイルス感染症死亡リスク

新型コロナウイルス感染症では、高齢、高血圧、糖尿病、心血管系疾患などがあると死亡リスクが上がると報告されてきました。しかし残念なことに、初期の論文はリスク因子が補正されていません。

たとえば高齢者で死亡リスクが高くなるとします。そうすると高齢者では高血圧の人が多いわけですから、高血圧の人の死亡リスクも高く集計されます。高血圧が本当にリスク因子かどうかを見るには年齢補正をしなければなりません。

まだ正式な発表前ですが、多変量補正した死亡リスクの論文が公表されました。イギリスの人口の40%をカバーする膨大な医療データを元に計算しています。調査期間は2020年2月1日〜4月25日です。調査対象は17,425,445人の成人で、うち5,683人が新型コロナウイルス感染症で亡くなられています。

院内死亡リスクをCox回帰分析しています。多変量補正しますと、死亡リスクが高いのは、男性(HR1.99)、高齢者(50歳代を基準1.00としますと、40歳代が0.31、80歳以上が12.64)貧困、糖尿病(HbA1c7.5%未満で1.50、7.5%以上で2.36)、肥満、喘息(軽症1.11、重症1.25)、慢性心疾患(1.27)などです。

この研究ではこれまでの報告と異なり、高血圧は死亡リスクを上げていませんでした(補正前リスク1.22→補正後0.95)。まだ論文が正式受理されていませんので、大きなことは言えませんが、血圧の高い人はちょっとほっとしますね。

糖尿病はコントロールを良くするようにしましょう。


令和2年5月17日 

超加工食品で糖尿病が増える

以前に、超加工食品は食べ過ぎてしまうきらいがあり、心血管系疾患のリスクになることを紹介しました。今回、超加工食品は2型糖尿病のリスクにもなることを紹介します(JAMA Internal Med 2019)。

超加工食品の定義はあいまいですが、スーパーに並んでいる大量生産された加工食品はほとんどが超加工食品であり、ありふれた食品です。

今回紹介する論文はフランスのNutriNet-Sante研究で、参加人数は104,707人(18歳以上)、中央値で6.0年観察しています。摂取食品は複数回(平均5.7回)の食品アンケート(3500項目)で調査しています。多変数で補正した後の成績です。2型糖尿病のリスクは超加工食品が食事に占める割合が10%増える毎に1.15と増加していました。これは前回紹介した心血管系疾患リスクと同じ程度の増加です。

超加工食品の絶対量(g/日)でも検討していますが、これも糖尿病リスクと関連していて、この関連はたとえ未〜低加工食品摂取量で補正しても認められます。

いろいろな超加工食品をひとまとめにして論じていますので、具体的にその何がどう悪いのかは分かりません。きっと手軽でおいしすぎるんだろうと思います。また同じ食品でもインスタント食品はGI値(炭水化物量当たりの血糖の上昇しやすさ)が高くなります。

この論文を読んでいて、簡単に食べ物が手に入る環境(食品店の多さ)と成人糖尿病の関連を調べた論文(BMC Public Health 2017)を思い出しました。周囲に食品店が多くなると糖尿病リスクが増えるのです。もっとも、この関連は、余分な食品を買えるか買えないかの経済的な問題もあり、貧しい集団ではリスク増加がありません。


令和元年12月20日

メトホルミン以外の糖尿病薬と認知症予防効果

3ヶ月前にメトホルミンの認知症予防効果についてお話しましましたが、メトホルミン以外の薬にも認知症予防効果がありそうなことが報告されました(Eur J Endocrinol 2019)。

対象はオランダ国民糖尿病レジスターに登録された2型糖尿病患者176,250人で、コホート内症例対照研究です。1995-2012年に登録を行い、2018年5月まで観察しています。観察期間中に認知症を発症した人は11,619人、それぞれの認知症患者1人につき4人の対照(認知症のない人)を設定しました。

使ったことのある糖尿病薬を「インスリン」「メトホルミン」「SU剤あるいはグリニド剤」「グリタゾン系」「DPP-4阻害薬」「GLP-1製剤」「SGLT2阻害薬」「アカルボース」に分け、認知症発症に影響のありそうな変数を補正して検討しました。

結果ですが、メトホルミン、DPP-4阻害薬、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬の服用歴のある人の認知症オッズ比は、それぞれ0.94 (0.89-0.99)、0.80 (0.74-0.88)、0.58 (95%CI 0.50-0.67)、0.58 (0.42-0.81)でした

オッズは「見込み」のことです。薬のあるなしで「疾患の見込み」がどのくらい変わるか、割り算して比をとったのが、オッズ比です。オッズ比が低いことは「疾患の見込み、今回の場合は認知症の見込み」が低いことを意味します。

症例対照研究ですので、「こういった薬を使うと認知症が抑制される」とまで言えないのですが、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬は良さそうに見えます。次の研究に期待したいですね。


令和元年11月21日